「中型犬を飼いたいけど、仕事もあるし、一人暮らしの私に本当に育てられるかな…」ネットで調べるほど、そんな不安が大きくなっていませんか?
「初めて犬を飼いたいんです」と相談に来られる方の多くが、少し不安そうな顔をされています。特に、あなたのように都心で働きながら一人で、となると当然ですよね。でも、大丈夫。大切なのは、100種類の犬種を覚えることではありません。あなたの生活という『たった一つの基準』で、犬種を見極める方法を知ることなんです。
ご安心ください。大切なのは、曖昧な「飼いやすさランキング」に惑わされることではありません。この記事では、あなたのライフスタイルを『ものさし』にして、本当に相性の良いパートナー犬を見つけるための、具体的で現実的な方法だけをお伝えします。
読み終える頃には、どの犬種が自分に合うのか明確になり、「これなら大丈夫」と自信を持って次の一歩を踏み出せるようになっているはずです。一緒に、あなただけの最高のパートナーを見つけましょう。
まずは、その不安の正体から。なぜ「飼いやすい中型犬」探しは失敗しやすいのか
私が主宰するしつけ教室には、これから犬を迎えようと考えている方や、迎えたばかりの方から多くの相談が寄せられます。その中で最も頻繁に受ける質問の一つが、「どの犬種が一番お利口で、飼いやすいですか?」というものです。
この質問をされる方の多くは、単に楽をしたいわけではありません。その言葉の裏には、「しつけに失敗して、ご近所に迷惑をかけたくない」「自分のせいで、その子を不幸にしたくない」という、飼い主としての誠実さと、責任感ゆえの強い不安が隠れています。
結論から申し上げますと、「誰にとっても飼いやすい万能な中型犬」というのは存在しません。ネット上の「飼いやすい犬種ランキング」を鵜呑みにして失敗してしまう最大の原因は、犬種の特性と、飼い主さんのライフスタイルとの間に起きる「相性のミスマッチ」にあります。
ここでは、なぜそのミスマッチが起きてしまうのか、実際にあった事例を交えて解説します。
「中型犬」というカテゴリの落とし穴
そもそも、なぜ多くの方が「中型犬」を選ぶのでしょうか。「大型犬ほど力が強くなく、小型犬ほど華奢ではない」という、サイズ感の丁度良さが魅力だからです。
しかし、ここに大きな落とし穴があります。実は、人気の中型犬(コーギー、ビーグル、柴犬、ボーダーコリーなど)の多くは、牧羊犬や猟犬として活躍してきた「ワーキングドッグ(作業犬)」のルーツを持っています。
彼らは本来、一日中野山を駆け回り、家畜を誘導したり獲物を追ったりする仕事を任されていました。そのため、非常に賢く、飼い主に忠実であるというメリットがある一方で、スタミナが底なしにあり、警戒心が強く、仕事(役割)を与えられないとストレスを感じやすいという側面も持っています。
【事例】「可愛さ」と「生活」のズレが生んだ悲劇
以前、このようなご相談を受けました。都内のマンションで一人暮らしをしている女性のケースです。
彼女は、SNSで見かけた短い足と愛くるしい笑顔に惹かれ、ウェルシュ・コーギーの子犬を迎えました。しかし、半年も経たないうちに「もう育てられないかもしれない」と、涙ながらに相談に来られました。
日中はお仕事で忙しく、散歩は朝晩の15分ずつが限界でした。しかし、コーギーは元々、牛のかかとを噛んで誘導していた牧畜犬です。有り余るエネルギーを発散できない彼は、家中の家具をかじり、廊下の足音に激しく吠え、女性の足首に噛みつくようになってしまったのです。
犬が悪いのでも、あなたが悪いのでもない
このケースで重要なのは、決して「犬の性格が悪かった」わけでも、「飼い主さんの愛情が足りなかった」わけでもないということです。
ただ単に、「活動的な作業犬」と「静かなマンションでの一人暮らし」というパズルのピースが、噛み合わなかっただけなのです。もし、この飼い主さんが毎日1時間走り回れる環境にいたり、週末にドッグスポーツを楽しめる方だったりすれば、このコーギーは最高のパートナーになっていたはずです。
多くのネット記事やランキングは、あくまで一般的な傾向を羅列しているに過ぎません。そこには、あなたの「残業時間」も、「部屋の広さ」も、「休日の過ごし方」も考慮されていません。
だからこそ、一般的な「飼いやすさ」という言葉に惑わされず、あなたの生活にフィットするかどうかを見極める視点を持つことが、失敗を防ぐ唯一の方法なのです。
ネットのランキングはもう不要。あなたの生活に合う犬を見つける「3つの軸」

「初心者におすすめの犬種ランキング」や「飼いやすい犬ベスト10」。これから犬を迎えようとする時、誰もが一度はこのような情報を検索するはずです。
しかし、これらのランキングを鵜呑みにすることはおすすめできません。なぜなら、ランキングはあくまで「一般的な平均値」であり、あなたの「個別の生活環境」や「性格」までは考慮されていないからです。
例えば、ランキング上位の犬種であっても、あなたの居住環境やライフスタイルと合わなければ、お互いにとって不幸な結果を招きかねません。重要なのは、世間の評判ではなく、自分の生活にフィットするかどうかを見極める「自分だけのものさし」を持つことです。
ここでは、ミスマッチを防ぐために絶対に見るべき「3つの軸」について解説します。
1. 静穏性(警戒心と興奮のコントロール)
一つ目の軸は、「静穏性」、つまりどれだけ穏やかに過ごせるかという点です。
マンションや集合住宅で暮らす場合、近隣トラブルの最大の原因となるのが「吠え声」です。もちろん、犬にとって吠えることはコミュニケーションの一つであり、全く吠えない犬はいません。しかし、犬種や個体によって、物音に対する反応のしやすさ(警戒心)や、声の大きさには明確な違いがあります。
見るべきポイントは、「チャイムの音や廊下の足音に過剰に反応しないか」という点です。番犬としての歴史を持つ犬種は、どうしても警戒心が強く、些細な物音で吠えやすい傾向があります。一方で、愛玩犬として改良されてきた歴史の長い犬種は、比較的穏やかな性質を持つことが多いです。
ただし、静穏性が高いとされる犬種でも、運動不足やストレスがたまると無駄吠えが増えるという点には注意が必要です。
2. 自立心(留守番への耐性)
二つ目の軸は、「自立心」、つまり一人遊びや一人の時間を楽しめるかどうかです。
一人暮らしや共働き世帯において、「留守番」は避けられない生活の一部です。飼い主さんが仕事に行っている間、パニックにならずに寝て待っていられるか、それとも不安で鳴き続けてしまうかは、生活の質を左右する極めて重要な要素となります。
自立心が高い犬は、飼い主さんへの依存度が適切で、一人の時間をリラックスして過ごすことができます。これは、飼い主さんの姿が見えなくなると破壊行動や粗相をしてしまう「分離不安」という深刻な問題行動の予防にもつながります。
一方で、自立心が高いということは、裏を返せば「ベタベタするのを好まない」場合があるというデメリットもあります。常に抱っこしていたい、常にくっついていたいという方には、少し物足りなさを感じることもあるかもしれません。自分の求める距離感をイメージしておくことが大切です。
3. エネルギーレベル(必要な運動量と活動欲求)
三つ目の軸は、「エネルギーレベル」、つまりその犬が本来持っている体力の総量です。
あなたの生活の中で、毎日どれくらいの時間を「犬のためだけの運動(散歩や遊び)」に費やせるか、正直にシミュレーションしてみてください。ここでのミスマッチは、犬にとっても飼い主にとっても最大のストレス要因となります。
例えば、小型犬であっても、元々が狩猟犬(テリア種など)のルーツを持つ犬は、驚くほどのスタミナを持っています。このような活発な犬を、インドア派の飼い主さんが迎えてしまい、散歩時間が足りなくなるとどうなるでしょうか。犬は有り余る体力を発散できず、家具を噛んだり、室内を走り回ったりといった問題行動を起こす可能性が高くなります。
逆に、あまり動くのが好きではない犬を、アウトドア好きの飼い主さんが連れ回すと、犬にとって負担になります。
「体の大きさ」と「必要な運動量」は必ずしも比例しないという点に注意し、自分の体力や休日の過ごし方に合ったエネルギーレベルの犬を選ぶことが、長く幸せに暮らす秘訣です。

【実践編】あなたのパートナー候補はこの3犬種!ライフスタイル別・徹底比較
先ほどの「3つの軸」を元に、私がこれまでの経験から「都心マンション・一人暮らし」という環境に適応しやすいと考える3犬種を、良い点も注意すべき点も正直にご紹介します。
候補1:シェットランド・シープドッグ(シェルティ)

「名犬ラッシー」で知られるコリーを小型化したような優雅な見た目が特徴です。非常に賢く、飼い主の気持ちを察するのが得意で、深い絆を築くことができます。
- 静穏性: ◯ 賢いがゆえに、状況判断が得意でむやみに吠えることは少ない傾向にあります。ただし、元牧羊犬のため、チャイムの音などには警戒して吠えることがあります。
- 自立心: △ 飼い主に忠実で甘えん坊な一面も。子犬の頃からの留守番トレーニングが不可欠です。
- エネルギーレベル: △ シェットランド・シープドッグの運動量は中程度ですが、元牧羊犬であるため、ただ歩くだけでなく、頭を使う遊び(ノーズワークなど)を取り入れると満足度が高まります。1日2回、合計1時間程度の散歩が理想です。
候補2:ウィペット

まるで彫刻のような、洗練された美しい体つきが魅力の犬種です。イギリス原産の猟犬ですが、家庭犬としての歴史も長く、非常に穏やかな性格をしています。
- 静穏性: ◎ 「吠えない犬」として名前が挙がるほど、非常に物静かな犬種です。マンション暮らしにはこの上ない長所と言えるでしょう。
- 自立心: ◯ 室内では落ち着いて寝ていることが多く、留守番も比較的得意な傾向があります。
- エネルギーレベル: ◯ ウィペットの運動量には特徴があり、瞬発的に走るのは大好きですが、持続的な運動はそこまで必要としません。「ソファの上のカウチポテト」と表現されるほど、家では静かに過ごします。週末にドッグランで思い切り走らせてあげられると理想的です。
候補3:アメリカン・コッカー・スパニエル

大きな瞳と長い垂れ耳が愛らしい、陽気で人懐っこい性格の犬種です。「わんわん物語」のレディのモデルとしても有名ですね。
- 静穏性: ◯ 陽気ですが、無駄吠えは少ない傾向にあります。人や他の犬に対してもフレンドリーなため、来客時に過剰に吠える心配は少ないでしょう。
- 自立心: △ 人と一緒にいるのが大好きな性格のため、長時間の留守番は少し苦手かもしれません。在宅勤務が多い方に向いています。
- エネルギーレベル: ◯ 元々は鳥猟犬なので、散歩や遊びは大好きです。1日2回、合計1時間程度の散歩で満足してくれるでしょう。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: 犬種図鑑の情報は「平均値」と考え、最後は必ずその犬自身の個性を見て決めてください。
なぜなら、同じ犬種でも一頭一頭の性格は全く違うからです。これは、信頼できるブリーダーを見つけることが、しつけの成功の第一歩である理由でもあります。良いブリーダーは、子犬の社会化期に適切な経験をさせており、それぞれの性格を熟知しています。気になる犬種が見つかったら、必ずブリーダーの元へ足を運び、親犬や兄弟犬の様子も見せてもらいましょう。
📊 比較表
表タイトル: あなたのパートナー候補3犬種 ライフスタイル適合度チェック
| 特徴 | シェットランド・シープドッグ | ウィペット | アメリカン・コッカー・スパニエル |
|---|---|---|---|
| 静穏性 | ◯ (賢く状況判断できる) | ◎ (吠えることが稀) | ◯ (陽気だが無駄吠えは少ない) |
| 留守番適性 | △ (トレーニング必須) | ◯ (室内では落ち着いている) | △ (人といるのが好き) |
| 運動量 (散歩目安) | 1日2回 / 合計1時間 | 1日2回 / 合計45分+α | 1日2回 / 合計1時間 |
| お手入れの手間 | 多い (長毛で毎日のブラッシング要) | 少ない (短毛で手入れは楽) | 多い (長毛でトリミング必須) |
| 平均的な生涯費用 | 約250〜300万円 | 約200〜250万円 | 約250〜300万円 |
よくある質問(FAQ):迎える前にもう一度確認したいこと
Q. 結局、初期費用はどれくらいかかりますか?
A. 迎える犬種の価格にもよりますが、生体価格とは別に、ケージや食器などの用品代、最初のワクチン代などで10〜20万円ほど見ておくと安心です。加えて、万が一の病気や怪我に備え、ペット保険への加入も強くお勧めします。
Q. 良いブリーダーさんはどうやって探せばいいですか?
A. まずは、ジャパンケネルクラブ(JKC)のウェブサイトで、お目当ての犬舎(ブリーダー)を探すのが王道です。良いブリーダーは、特定の犬種に愛情を持ち、衛生的な環境で親犬の健康管理を徹底しています。見学の際に、質問に誠実に答えてくれるか、親犬に会わせてくれるか、といった点を確認しましょう。
Q. やっぱり子犬からじゃないと懐きませんか?
A. そんなことは全くありません。保護犬の中には、成犬になってから保護された子もたくさんいます。成犬は性格や大きさが既に分かっているという大きなメリットがあります。お住まいの地域の動物愛護センターや保護団体のウェブサイトを覗いてみるのも、素晴らしい出会いへの一つの扉です。
Q. 旅行や出張の時はどうすればいいですか?
A. ペットホテルや、かかりつけの動物病院での預かりサービスを利用するのが一般的です。最近では、自宅に来てお世話をしてくれるペットシッターという選択肢もあります。犬を迎える前に、近所に信頼して預けられる場所があるかリサーチしておくと、いざという時に慌てずに済みます。
まとめ:あなただけの最高のパートナーを見つけるために
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
犬種選びは、あなたのライフスタイルという「ものさし」で測ることが全てです。「静穏性」「自立心」「エネルギーレベル」という3つの軸を、決して忘れないでください。
犬を飼えるかどうか不安に思うのは、あなたが真剣に一つの命と向き合い、その犬の幸せを考えている何よりの証拠です。その優しい気持ちと、今回手に入れた正しい知識があれば、あなたにも最高のパートナーは必ず見つかります。
さあ、次は写真や文字だけでなく、「本物の犬」に会いに行ってみませんか?まずは、今回ご紹介した犬種のブリーダーや保護団体のウェブサイトを訪れて、見学の予約を検討してみましょう。その一歩が、あなたの人生をより豊かにする、かけがえのない出会いに繋がっているはずです。
この記事を書いた専門家
いぬかい 誠(Makoto Inukai)
獣医師 / シニア犬専門クリニック院長
獣医師歴15年。年間500頭以上のシニア犬の診察・ケア指導を行う、高齢動物医療の専門家。ペット専門誌での連載も多数。「病気を治す」だけでなく、飼い主さんと二人三脚で「愛犬の生活の質(QOL)」を高めることを信条としています。
飼い主さんへのメッセージ: 「10歳からの時間は、愛犬との絆を最も深められる貴重な宝物です。あなたの不安に寄り添い、最高の時間を過ごすお手伝いをさせてください。」
[参考文献リスト]



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