監修
この記事の監修者
佐野 健人 (さの けんと)
獣医師 / 都内動物病院 院長
北里大学獣医学部卒業。都内の救急動物医療センターでの勤務を経て、現在は地域密着型の動物病院にて院長を務める。専門は循環器科と予防医療。「飼い主様の話をよく聞くこと」を診療方針とし、セカンドオピニオン対応も積極的に行っている。
夜だけ落ち着かない・徘徊・夜鳴きといった相談では、まず「痛み」「不安」「生活リズム」だけでなく、呼吸や心臓など“見逃したくない体調変化”が隠れていないかを丁寧に確認します。この記事では、ご家庭でできる観察と、今夜からの負担軽減策、受診の目安までを分かりやすくまとめました。
夜中に、愛犬がリビングをウロウロする物音でふと目が覚める…。時計を見ると、まだ深夜の2時。「またか…」とため息をつきながら、暗闇で動く小さな背中を見つめる。犬が夜だけ落ち着かないと、心配も増えるし、あなたの睡眠も削られてしまいますよね。
「どこか痛いの?」「認知症の始まりだったらどうしよう…」と不安になるのは当然です。救急現場でも、夜間の不調をきっかけに受診されるケースは少なくありません。だからこそ、まずは落ち着いて“原因の当たり”を付けていきましょう。
この記事の結論を先にお伝えします。その行動変化は“年のせい”で片付けるには早いかもしれません。観察のコツを押さえれば、原因の見当がつき、対策も組み立てられます。
この記事では、獣医師が行動変化の整理で使う考え方「DISHAA」をベースに、原因の切り分け方と、今夜からできる現実的な応急プランをまとめました。読み終える頃には、「何を見て・何から試すか」がクリアになるはずです。
※大切なお願い:本記事は一般的な情報です。急に様子が変わった、呼吸が苦しそう、失神やふらつきがある、明らかに痛がるなどの症状がある場合は、セルフケアより先に受診を優先してください。
「年のせいかも…」は危険信号?シニア犬の夜の不穏、3つの隠れた原因
「夜だけ落ち着かない=認知症」と決めつけてしまう方は多いのですが、実際にはもっと幅があります。ここでは、臨床でまず疑う3つの柱を整理します。ポイントは、原因が違えば、やるべき対策が真逆になることがある点です。

原因1:脳の老化(認知機能不全症候群)
いわゆる「犬の認知症」です。昼夜のリズムが崩れ、夜間に活動的になったり、家の中で迷子のように不安げになったりします。特徴としては、夜だけでなく日中の反応や行動にも“ちょっとした変化”が出やすいです。
こんな変化がセットで起きやすい
- 名前を呼んでも反応が鈍い日が増えた
- 部屋の角で立ち尽くす、同じ場所を行ったり来たりする
- 昼間に寝ている時間が増え、夜に目が冴える
原因2:体の痛み(関節炎・腰・内臓の不調など)
ここは本当に見落とされやすいです。犬は痛みやしんどさを隠しがちで、日中は気が紛れていても、夜の静けさで不快感が目立つことがあります。
「痛みっぽい」サインの見分け方
- 寝床を何度も変える(楽な姿勢が見つからない)
- 立ち上がり・階段・段差を嫌がる
- 触ると嫌がる場所がある(背中、腰、足先など)
- 散歩のテンポが遅くなった/途中で座り込む
夜に悪化しやすい「呼吸・心臓のしんどさ」にも注意
夜間の落ち着かなさが、息苦しさ(呼吸が浅い・速い/横になると苦しい)や咳とセットで見られる場合、関節痛だけでなく、循環器・呼吸器の不調が関係することもあります。特に、「横になると咳が出る」「寝付けずに座る・立つ」が目立つときは、早めの受診が安心です。
夜鳴きや徘徊は認知症と似ますが、「動きが硬い」「姿勢で困っている」「呼吸がつらそう」が見える場合は、まず身体の評価を優先する価値があります。
原因3:心の不安(分離不安・感覚低下による不安・環境ストレス)
シニア期は視力・聴力が落ち、暗さや静けさが不安を増幅します。「夜だけ落ち着かない」の背景に、見えない・聞こえない怖さが潜んでいることも少なくありません。
不安が強い子に多い行動
- 飼い主の気配を探すように歩き回る
- 物音に過敏、急に吠える
- 暗い部屋を嫌がる、照明がある場所に集まる
【ミニまとめ】原因の当たりを付ける早見表
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| よくある様子 | 疑いやすい原因 | まずの一手 |
|---|---|---|
| 夜に徘徊+日中も反応が鈍い | 脳の老化(認知機能) | DISHAAで観察→受診相談 |
| 寝床を移動・姿勢を探す・動きが硬い | 痛み(関節・腰など) | 床の滑り対策+触診で痛がる部位確認 |
| 夜に咳・呼吸が速い/横になるのを嫌がる | 呼吸・心臓のしんどさ など | 動画撮影→早めに受診相談 |
| 暗いと不安・飼い主を探す | 不安(分離不安/感覚低下) | 常夜灯+安心できる導線づくり |
ここまでで「うちの子はどれっぽいかな?」の仮説が立ちます。次は、その仮説を精度よくするための観察の武器を持ちましょう。
獣医師と考えよう。愛犬のサインを読み解く「DISHAA」観察リスト
「原因は分かった。でも、決め手がない…」という時に役立つのが、私たちが行動の変化を整理するときの枠組みです。認知機能の評価でよく使われる合言葉がDISHAA(ディシャー)です。

DISHAAは、“夜だけ落ち着かない”が認知機能の問題なのか、別の要因が濃いのかを見分けるヒントになります(ただし、呼吸・心臓など体調由来の可能性が強い場合は、観察と並行して早めの受診が安全です)。
なお、DISHAAはAAHA(米国動物病院協会)のシニアケアガイドラインでも、認知機能や行動不安の整理に触れられています(出典:
AAHA 2023 Senior Care Guidelines(Managing Cognitive Dysfunction and Behavioral Anxiety))。
DISHAAチェック(6項目)
1〜2週間くらいの範囲で、「増えた・目立つ」を基準にチェックしてみてください。動画も一緒に残すと、後で見返しやすいです。
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| 項目 | 意味 | 具体例(当てはまる?) | メモ |
|---|---|---|---|
| D | 見当識 | 部屋の隅で立ち尽くす/ドアの開く側が分からない/呼びかけ反応が薄い | □ |
| I | 交流 | 撫でられるのを嫌がる/逆に甘えが強い/家族への関心が減った | □ |
| S | 睡眠 | 昼に寝て夜に起きる/夜通しウロウロする/夜鳴きが増えた | □ |
| H | 排泄 | トイレの場所が分からない/粗相が増えた/散歩中に排泄しない | □ |
| A | 活動 | 目的もなく歩き回る/好奇心が低下/遊びへの反応が薄い | □ |
| A | 不安 | 物音に怯える/飼い主から離れない/落ち着かず呼吸が浅い | □ |
チェック結果の読み方(ざっくりでOK)
- 複数項目が同時に増えている:認知機能の影響が強い可能性。早めに受診相談が安心です。
- S(睡眠)だけが目立つ:痛み・不安・日中の刺激不足など、他要因が主役のこともあります。
- 息が荒い・咳が増えた等が同時にある:循環器・呼吸器の評価も含めて相談を。
観察のコツ:記録は「短く・一定」で続ける
頑張り過ぎると続かないので、私は飼い主さんに「毎晩1分のメモ」をおすすめしています。
- 起きた時刻(例:2:10)
- 行動(ウロウロ、鳴く、トイレ、はぁはぁ等)
- きっかけ(物音、トイレ失敗、寝返り等)
- 何をしたら落ち着いたか(常夜灯、撫でる、水、排泄など)
- 呼吸の様子(咳、息の速さ、横になれるか)
この記録があると、受診時に話が一気に早くなります。「うまく説明できない…」が減って、あなたの不安も軽くなりますよ。夜鳴きやトイレ失敗など、シニア期に増えやすい行動変化をもう少し体系的に整理したい方は、
老犬の行動変化は病気のサイン?認知症との違いや対策を徹底解説!
もあわせて見ると、原因の当たりが付けやすいです。
今夜からできる!愛犬とあなたのための「穏やかな夜」を取り戻す3ステップ応急プラン
原因の特定には時間がかかることもあります。でも、診断を待つ間もできることはあります。ここでは、原因がまだ確定していなくても共通して有効になりやすい「応急プラン」を、現場目線でまとめます。

Step1: 安心できる寝床環境を作る
夜だけ落ち着かない子は、環境の小さなストレスが積み重なっていることが多いです。まずは「不安」と「転倒リスク」を下げましょう。
今夜すぐできる環境調整
- 常夜灯をつける:真っ暗は不安が増えがち。足元がぼんやり見える程度でOKです。
- 滑らない床材:フローリングは踏ん張れず、動くほど不安定になります。寝床周りだけでもマットを敷くと安心感が上がります。
- 水とトイレを近くに:「喉が渇いた」「トイレに行きたい」が徘徊の原因になっているケースは少なくありません。
“導線”を作ると徘徊が減ることがあります
完全に歩き回るのを止めるより、迷いにくい導線を作る方が現実的なこともあります。例えば「寝床→トイレ→水→寝床」を、家具で区切って“回遊コース”にしてあげるイメージです。
Step2: 日中の過ごし方で体内時計を整える
夜だけ落ち着かない問題は、日中の刺激が足りないと悪化しやすいです。とはいえ、シニア犬に長時間散歩は負担。ここは短く・楽しく・複数回がコツです。
- 短い散歩を複数回:10分×朝夕など。日光を浴びるとリズム調整に役立ちます。
- 嗅覚を使う遊び:知育トイ、ノーズワーク、タオルにおやつを包むなど。脳の“適度な疲れ”が夜の睡眠を助けます。
- 昼寝のコントロール:日中ずっと寝続ける場合は、夕方に軽い刺激(散歩や遊び)を入れると夜が整いやすいです。
「そもそもシニア期って何から整えるべき?」という全体像を掴みたい方は、
10歳の愛犬はシニア期?獣医師が教える長寿の秘訣と心のケア方法
が、食事・健診・心のケアまで一続きで理解しやすいと思います。
Step3: 飼い主の接し方を見直す
夜中に鳴かれると、つい声をかけたくなりますよね。ただ、やり方次第で「夜鳴きが固定化」してしまうことがあります。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: 夜鳴きに対して、すぐに声をかけたり、抱き上げたりするのはぐっと堪えてください。
理由は、良かれと思ってやった行動が「鳴けば来てくれる」という学習につながることがあるからです。まずは叱らず、騒がず、状況を見て、必要なら静かに寄り添う(短く撫でる、落ち着く場所へ誘導する)に留めるのが無難です。
「無視」ではなく「過剰反応しない」がコツ
完全に無視すると不安が強い子には逆効果になることもあります。私は「過剰に盛り上げない」をおすすめします。照明をつけっぱなしにして遊ぶ、長時間なだめ続ける、夜食を毎回与える…などは、パターン化すると抜けにくくなります。
また、「寝ているのに鳴く」「キャンキャン言う」など、夜鳴きと見分けがつきにくいケースもあります。気になる場合は、
愛犬が寝ながらキャンキャン鳴くのは大丈夫?獣医師が教える「夢か発作か」30秒診断チェックリスト
で、危険サインの切り分けを先に確認しておくと安心です。
その症状、様子見でいい?動物病院へ行くべき危険なサイン
セルフケアを試しても改善しない場合や、次のような症状がある場合は、様子見より受診が安心です。特に、“夜だけ”のはずが日中にも影響が出てきた場合は、早めに相談しましょう。
すぐ受診を検討したいサイン
- 食欲が急に落ちた、または異常に増えた
- 水を飲む量が明らかに増えた
- 呼吸が速い、または苦しそうにしている
- 夜間の咳が増えた/横になるのを嫌がる
- 体を触ると特定の場所を痛がる、怒る
- 急に痩せてきた、または太ってきた
- 同じ方向ばかりにぐるぐる回る
- ふらつく/失神のように崩れる
受診の質を上げる「持って行くもの」
「病院でうまく説明できるかな…」と不安な方へ。私は次の2つがあるだけで、診断の精度がグッと上がると思っています。
- 夜間の動画(30秒〜1分でOK):徘徊、夜鳴き、咳、呼吸の様子、立ち上がりなど
- DISHAAチェックと簡単な記録:いつから・頻度・きっかけ・何で落ち着くか
この2つが揃うと、獣医師側も「痛み評価を優先するか」「認知機能の検討を進めるか」「循環器・呼吸器の検査が必要か」など、判断がしやすくなります。
まとめ
ここまでの内容を、最後にギュッと整理します。
- 犬が夜だけ落ち着かない原因は、認知機能だけでなく「痛み」「不安」「体調(呼吸・心臓など)」まで幅広くあります。
- 獣医師の整理法「DISHAA」を使うと、観察が“感情”から“情報”に変わります。
- 今夜からは、環境調整→日中の刺激→接し方の順に、負担少なく試せます。
- 危険サインがある場合は、迷わず受診。動画と記録が強い味方です。
「私のせいかも」と自分を責めなくて大丈夫です。夜の不穏は、飼い主さんの愛情が足りないから起きるものではありません。むしろ、最初に異変に気づいて行動できるのは、あなたです。
まずは今夜、DISHAAチェックを片手に、愛犬の様子を“1分だけ”観察してみませんか?その1分が、穏やかな夜への最短ルートになります。
[著者情報]
監修者:佐野 健人 (さの けんと)
獣医師 / 都内動物病院 院長
北里大学獣医学部卒業。都内の救急動物医療センターでの勤務を経て、現在は地域密着型の動物病院にて院長を務める。専門は循環器科と予防医療。飼い主様の不安を言語化し、必要な検査・ケアを一緒に整理する診療を大切にしている。セカンドオピニオン対応も積極的に行う。
[参考文献リスト]
- AAHA. 2023 Senior Care Guidelines for Dogs and Cats(Managing Cognitive Dysfunction and Behavioral Anxiety)



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