長年の夢だった犬との生活。でも、一人暮らしで仕事も忙しい私が、本当にこの子の生涯に責任を持てるだろうか…?
SNSで可愛い子犬の動画を見るたびにその気持ちは膨らむ一方で、同時に「もし、私がこの子を不幸にしてしまったらどうしよう」という、ずっしりと重い不安が湧き上がってくる。そのお気持ち、痛いほどよく分かります。
この記事は、そんな真剣で優しいあなたのために書きました。
単なる感情論や「大変だけど幸せだよ」といった言葉で背中を押すことはしません。この記事が提供するのは、獣医師としての私の知見と公的なデータに基づいた、後悔しない決断を下すための具体的な判断材料です。読み終える頃には、あなたの心の中にある漠然とした不安は晴れ、自分自身の状況に合わせた最善の答えを、自信を持って見つけられるはずです。
この記事を書いた専門家
伊藤 恵(いとう めぐみ)
獣医師 / ペットライフコンサルタント
都内動物病院で15年の臨床経験を積んだ後、飼い主が直面するリアルな課題解決に特化したコンサルティングサービスを設立。
特に、犬を飼う前の「覚悟」を飼い主候補者と共に考える『飼う前相談』は年間200件以上に及び、多くの家庭と犬の幸せなマッチングを支援している。
なぜ9割の飼い主が「想像以上に大変」と答えるのか?3つのリアルな現実
こんにちは、獣医師の伊藤です。長年、動物病院で多くのワンちゃんと飼い主さんを見てきました。「一人暮らしでも飼えますか?」というご質問、本当に多くいただきます。その真剣な問いの裏にある「命を預かる責任」への不安、とてもよく分かります。大丈夫、焦る必要はありません。一緒に現実的な課題を一つずつ確認していきましょう。
まず知っていただきたいのは、あなたのその不安は決して特別なものではない、ということです。実際に犬を飼っている飼い主さんへのアンケートでも、「想像以上に大変だった」と答える方は後を絶ちません。
「愛情さえあれば、きっと乗り越えられるはず」
そう信じて犬を迎え入れたものの、多くの人が直面する「想像と違った」現実。その正体は、主に以下の3つに集約されます。
- 見えない「お金」の現実: 毎月のフード代や消耗品代は計算できても、突然の病気やケガによる高額な医療費までは想像が及ばないケース。
- 奪われる「時間」の現実: 毎日の散歩や世話はもちろん、犬中心の生活になることで、これまで当たり前だった友人との予定や旅行が制限されるという現実。
- 心の「余裕」がなくなる現実: トイレの失敗や無駄吠えなど、しつけがうまくいかない時の焦りやストレス。自分の体調が悪くても世話は待ってくれないという、精神的なプレッシャー。
これらの現実は、決してあなたを怖がらせるために挙げるのではありません。むしろ、これらの課題を事前に知っておくことこそが、後悔を防ぐための最も有効なワクチンになるのです。
【意思決定フレームワーク】犬を飼う前にクリアすべき3つの絶対条件
犬を幸せにできるかどうかは、愛情の大きさだけでは決まりません。特に、頼れる人が他にいない一人暮らしの場合はなおさらです。
私はこれまでの経験から、犬を迎える「覚悟」があるかどうかは、以下の3つの条件を具体的な数字や計画でクリアできるかで判断できると考えています。
- 経済的安定: 突発的な出費を含め、生涯かかる費用を負担し続けられるか?
- 時間的余裕: 自分の時間を犠牲にして、犬のために毎日時間を割けるか?
- 緊急時対応: 自分に何かあった時、愛犬の命を守る体制を築けるか?
この3つは、犬とあなたの幸せな生活を支える土台そのものです。愛情という名の家を建てる前に、まずはこの土台がしっかりしているか、一緒に確認していきましょう。

条件1:経済的負担|生涯費用271万円の内訳と緊急時の備え

まず、最も現実的なお金の話から始めましょう。一般社団法人ペットフード協会の最新の調査によれば、犬一頭を生涯飼育するために必要な経費は、平均で約271万円と算出されています。
犬の生涯必要経費(医療費等含む)は 2,711,875 円
出典: 令和6年(2024年)全国犬猫飼育実態調査 – 一般社団法人ペットフード協会, 2024年
これはあくまで平均であり、犬種や健康状態によっては、これを大きく上回る可能性も十分にあります。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: 月々の費用よりも、突然の50万円の出費に耐えられるかを考えてください。
なぜなら、多くの飼い主さんが経済的に追い詰められるのは、日々のフード代ではなく、骨折や誤飲、ガンなどの予期せぬ高額医療費だからです。このリスクを軽減する「ペット保険」は、生涯費用という大きな経済的リスクに対する重要なリスクヘッジであり、特に一人暮らしの方には必須の備えと言えるでしょう。なお、「年齢とともに医療費が増える現実」や「保険を検討する時の考え方」については、シニア犬の医療費とペット保険の考え方(獣医師解説)も参考になります。
📊 比較表
表タイトル: 犬の飼育にかかる費用の目安
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| 費用の種類 | 主な内訳 | 金額の目安 |
|---|---|---|
| 初期費用 | 生体代、ワクチン、避妊去勢手術、ケージ、食器など | 200,000円~500,000円 |
| 月間費用 | フード、おやつ、トイレシート、トリミングなど | 10,000円~20,000円 |
| 年間費用 | ワクチン、フィラリア予防薬、健康診断など | 50,000円~100,000円 |
| 突発的費用 | 病気やケガの治療費、手術費など | 50,000円~1,000,000円以上 |
条件2:時間的制約|あなたの1日は「犬中心」に変わります

次に、時間の制約についてです。犬を飼うということは、あなたの24時間の使い方を根本から見直す必要がある、ということです。
具体的に、犬のために毎日確保すべき時間は、最低でも合計1.5〜2時間ほどになります。
- 朝の散歩: 30分
- 夜の散歩: 30分
- 食事の準備・片付け: 20分
- 室内での遊びやケア: 10分
これを、あなたの現在の生活リズムに当てはめてみてください。
- 今より1時間早く起きられますか?
- 仕事で疲れて帰ってきた後、雨の日でも、散歩に行く気力と体力を維持できますか?
- 急な残業や、友人との飲み会のお誘いを断る覚悟はありますか?
犬は、あなたの都合に合わせてはくれません。彼らの生活リズムが、あなたの新しい生活リズムになるのです。
条件3:緊急時のサポート体制|「もしも」の時に愛犬を守れますか?

そして、これが一人暮らしの方が犬を飼う上で、最も重要かつ見落としがちなポイントです。あなた自身の「もしも」の時、愛犬をどうするかという問題です。
環境省の調査でも、飼育放棄の理由の上位には常に「飼い主の病気や入院」が含まれています。時間的制約という課題、特にあなた自身が動けなくなるという緊急事態を乗り越えるためには、外部のサポート体制が不可欠です。これは依存関係にあり、片方だけでは成り立ちません。
具体的には、以下の選択肢が考えられます。
- 親族や友人: すぐに駆けつけてくれて、安心して預けられる人が近所にいますか?
- ペットシッター: 信頼できるプロのシッターさんを見つけていますか? 費用は1時間3,000円前後が相場です。
- ペットホテル: 急な出張などの際に、安心して預けられる施設をリサーチ済みですか?
なお、「一人暮らしならではのセーフティネットの作り方(預け先の探し方・緊急連絡カードなど)」を具体例付きで確認したい方は、大型犬と一人暮らしを叶える!物件探しの壁と費用シミュレーション(セーフティネット構築)の該当パートが実務的で役立ちます。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: 預け先の候補は、必ず2箇所以上確保しておいてください。
なぜなら、頼みの綱が一つだけだと、その方が旅行中だったり、ペットホテルが満室だったりした場合に、すぐに行き詰まってしまうからです。この「バックアップの確保」こそが、一人暮らしの飼い主さんが持つべき最大の責任の一つだと私は考えています。
また、緊急時(災害・誤飲事故・避難など)に備えるという意味では、「普段から安心して過ごせる居場所」を作っておくことも重要です。ケージの是非に迷う方は、大型犬にケージは必要ない?獣医が勧める本当の理由と活用術(災害時・事故対策)も一度目を通しておくと、判断材料が増えます。
最終チェックリスト:後悔しないための10の問いかけ
ここまで、お金、時間、緊急時の体制について見てきました。最後に、あなたの「覚悟」を可視化するための10個の質問をします。冷静に、正直に、ご自身の心に問いかけてみてください。
- □ 突然50万円の医療費が必要になっても、支払うことができますか?
- □ 今後15年間、犬のために継続してお金を使い続ける覚悟がありますか?
- □ 毎朝、今より1時間早く起きる生活を続けられますか?
- □ 疲れている日や悪天候の日でも、毎日2回の散歩を欠かさず行えますか?
- □ 友人との旅行や飲み会など、自分の楽しみを犬のために諦める覚悟はありますか?
- □ 家具を壊されたり、部屋を汚されたりしても、冷静に対応できますか?
- □ あなたが病気や入院をした時、すぐに犬の世話を頼める人が2人以上いますか?
- □ 信頼できるペットホテルやペットシッターの情報を調べてありますか?
- □ トイレのしつけなどがうまくいかなくても、根気強く向き合い続けられますか?
- □ 10年以上先、あなたのライフスタイル(転勤、結婚など)が変化しても、犬を生涯手放さないと誓えますか?
「飼わない」も、責任ある愛情です。
このチェックリストを見て、もし「今はまだ難しい」と感じたとしても、それは決して間違いではありません。むしろ、命を預かる責任を真剣に考えた、尊い証拠です。
「飼わない」という選択も、犬への深い愛情からくる、責任ある決断の一つです。
あなたのその真剣な悩みと向き合った時間は、決して無駄にはなりません。今は準備期間だと考え、さらに情報を集めたり、経済的な基盤を固めたりするのも素晴らしいことです。
もしチェックリストをクリアし、前向きな気持ちになったなら、まずは週末、保護犬の譲渡会に足を運んでみてはいかがでしょうか。すぐに飼うと決める必要はありません。ボランティアの方の話を聞いたり、実際に犬たちと触れ合ったりする中で、今の自分に何が足りないのか、リアルに感じられるはずです。
もし「今はまだ難しい」と感じたなら、その冷静な判断を誇りに思ってください。この記事をブックマークし、半年後、一年後にもう一度見返してみてください。その時までに何を準備すれば良いか、明確な目標になるはずです。
あなたの決断が、あなたにとっても、そしていつか出会うかもしれない小さな命にとっても、最も幸せなものであることを心から願っています。
[参考文献リスト]
- 一般社団法人ペットフード協会. 令和7年(2025年)全国犬猫飼育実態調査.
全国犬猫飼育実態調査 | 一般社団法人ペットフード協会。ペットフードの安全性・品質向上、健やかなペットライフの実現を目指し様々な活動に携わる団体。国内に流通する90%以上のペットフードが会員社により製造、販売されています。 - 環境省. 犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況. https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/statistics/dog-cat.html



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