「愛犬が急にご飯を食べてくれない…」初めて犬を飼った多くの飼い主さんが、同じ不安を抱えています。病気かもしれないと心配になりますよね。
でも、安心してください。子犬の食欲不振は、元気で他の症状がなければ、多くは病気以外の原因です。
この記事では、獣医師である私が、ご自宅で原因を特定できる『3ステップのお悩み解決フローチャート』をご用意しました。
読み終える頃には、愛犬が食べない理由が明確になり、今日から何をすべきかが具体的にわかります。
この記事を書いた専門家
いぬかい 誠(Makoto Inukai)
獣医師 / シニア犬専門クリニック院長
獣医師歴15年。年間500頭以上のシニア犬の診察・ケア指導を行う、高齢動物医療の専門家。ペット専門誌での連載も多数。「病気を治す」だけでなく、飼い主さんと二人三脚で「愛犬の生活の質(QOL)」を高めることを信条としています。
飼い主さんへのメッセージ: 「10歳からの時間は、愛犬との絆を最も深められる貴重な宝物です。あなたの不安に寄り添い、最高の時間を過ごすお手伝いをさせてください。」
まずは命のサインを確認!動物病院へ行くべき危険な症状チェックリスト

愛犬がフードを食べない時、原因を探る前に必ず行うべきことがあります。それは「今すぐに病院へ行く必要があるかどうか」を見極めることです。
結論から申し上げますと、以下のリストにある症状が一つでも見られる場合は、家庭でのケアを中止し、直ちに動物病院へ連絡してください。
なぜなら、食欲不振に加えてこれらの症状がある場合、誤飲や中毒、重篤な内臓疾患など、一刻を争う状態である可能性が高いからです。「様子を見よう」と判断を先送りすることで、治療が難しくなったり、最悪の場合は命に関わるという重大なリスク(デメリット)があります。
以下の5つのチェックポイントを読み上げながら、愛犬の様子を確認してください。
- □ 1. 意識レベルが低く、ぐったりしている単に眠いだけでなく、名前を呼んでも反応が薄い、目がうつろである、立ち上がろうとしてもふらつくといった状態です。大好きなおやつやおもちゃを見せても無反応な場合は、緊急性が高いと判断できます。
- □ 2. 激しい嘔吐や下痢を繰り返す一度だけでなく、短時間に何度も吐く、あるいは水のような下痢が止まらない状態は危険です。特に、嘔吐物に血が混じっていたり、便が黒くてタール状(血便のサイン)であったりする場合は、消化管内で異常が起きている可能性があります。脱水症状を急速に引き起こす恐れもあります。
- □ 3. 体に触れると怒る、または震えているお腹や背中を触ろうとすると「ウーッ」と唸ったり、「キャン」と鳴いたりするのは、強い痛みを感じているサインです。また、寒くないのに小刻みに震えている、背中を丸めてじっとしている(祈りのポーズ)場合も、腹痛やヘルニアなどの激痛に耐えている可能性があります。
- □ 4. 排泄が半日以上できていないトイレに行くポーズはとるのに、おしっこやうんちが出ない場合は要注意です。特にオス犬の場合、尿道閉塞などの病気で尿が出なくなると、短時間で尿毒症になり命を落とす危険があります。「出そうで出ない」は緊急事態のサインと捉えてください。
- □ 5. 呼吸が荒い、歯茎の色が白い安静にしているのに「ハアハア」と肩で息をしていたり、呼吸音がゼーゼーと鳴っていたりしませんか。あわせて口の中を確認し、歯茎や舌の色が白っぽい、あるいは紫色になっている場合は、酸素が不足しているかショック状態にあることが疑われます。
これらのサインが一つも見当たらず、「ご飯は食べないけれど、元気があり、水も飲めている」という状態であれば、緊急性は低いと考えられます。
その場合は、精神的な理由や環境要因など、病気以外の原因を探っていくことができます。焦らずに、次のステップで具体的な原因を絞り込んでいきましょう。
【診断フローチャート】3ステップでわかる!うちの子が食べない本当の理由
さて、緊急性の高い病気のサインはなかったとのことで、少し安心しましたね。
それでは、ここから対話形式で、愛犬がフードを食べない本当の理由を探っていきましょう。
この診断フローチャートは、私が日々の診察で飼い主さんにお聞きしている質問を基に作成しました。いくつかの簡単な質問に答えるだけで、原因の仮説を立てることができます。

このフローチャートの結果から、愛犬が食べない原因は、主に次の4つのどれかに当てはまることが多いです。次の章で、それぞれの原因に合わせた具体的な対処法を詳しく見ていきましょう。
原因別|今日からできる!獣医師が教える4つの具体的な対処法

原因の仮説が立てられたら、次はいよいよ実践段階に入ります。
ここでは、前のセクションで特定した4つの原因ごとに、ご自宅ですぐに取り組める具体的な対処法を解説します。大切なのは、愛犬の様子を細かく観察しながら、一つひとつの方法を根気よく試すことです。焦らず、愛犬と向き合う時間を作ってみてください。
1. 「わがまま・学習」が原因の場合
ドライフードは食べないのにおやつは喜んで食べる場合、それは「食べムラ」や「わがまま」と呼ばれる状態である可能性が高いです。より正確に言えば、「フードを拒否すれば、もっと美味しいものが出てくる」と犬が学習してしまっています。
この場合の解決策は、心を鬼にして「フード以外は与えない」という一貫した態度を貫くことです。
なぜなら、犬は非常に賢い動物だからです。一度「待てばご褒美が出る」というルールを覚えてしまうと、その要求はエスカレートしていきます。飼い主さんが根負けしておやつを出してしまうと、愛犬の健康管理が難しくなるというデメリットが生じます。
具体的には、以下の「15分ルール」を徹底することをおすすめします。
- 食事の時間になったらフードを出し、目の前に置く。
- 15分~30分経っても食べなければ、無言で食器を下げる。
- 次の食事の時間まで、水以外は一切与えない(おやつも禁止)。
空腹になれば、必ず次の食事でフードを食べるようになります。可哀想に見えるかもしれませんが、これが愛犬の健康を守るための愛情です。
以下に、成功のための行動指針をまとめました。
▼「わがまま」対策のDo & Don’t
| やること (Do) | やってはいけないこと (Don’t) | |
|---|---|---|
| 食事 | 出してから15〜30分で完全に片付ける | いつまでもダラダラと置きっぱなしにする |
| おやつ | 食事を完食できた時だけ、少量をご褒美にする | ご飯を食べないからといって、代わりにおやつを与える |
| 態度 | 家族全員でルールを統一し、毅然と対応する | 可哀想だからと、人間の食べ物を分け与える |
2. 「歯の生え変わり」など口の違和感が原因の場合
生後4ヶ月〜8ヶ月頃の子犬であれば、歯の生え変わりによる痛みが原因であるケースが多く見られます。また、成犬であっても口内炎や歯周病の痛みで硬いものを避けることがあります。
この場合の解決策は、物理的に「食べやすく加工する」ことです。
口の中が痛いときは、硬いドライフードを噛むことが苦痛になります。食事の形状を変えてあげることで、痛みを軽減し、スムーズに栄養を摂取できるようになります。
具体的な工夫として、以下の方法を試してみてください。
- ぬるま湯でふやかす:ドライフードを30度〜40度程度のぬるま湯に10分ほど浸し、芯まで柔らかくします。香りが立ちやすくなるメリットもあります。
- ウェットフードを活用する:水分を多く含む缶詰やパウチタイプのフードを、いつものフードに混ぜるか、単体で与えます。
- 小粒にする:フードを砕いて小さくすることで、噛む回数を減らして飲み込みやすくします。
ただし、柔らかい食事は歯垢が付きやすくなるというデメリットがあります。この時期は特に、歯磨きやデンタルケアを丁寧に行うよう心がけてください。
3. 「ストレス」が原因の場合
犬は環境の変化に非常に敏感な生き物です。引っ越しや部屋の模様替え、長時間の留守番、新しい家族(人やペット)が増えたなど、生活環境に変化はありませんでしたか?
精神的な負担が原因の場合、フードを変えることよりも「安心して食べられる環境づくり」が最優先です。
ストレスを感じている犬は警戒心が高まっており、落ち着いて食事ができません。食事環境を見直すことで、食欲が戻る可能性があります。
まずは、食事をする場所(ダイニング)を再点検してみましょう。
- 静かな場所へ移動する:テレビの音や人の出入りが激しい場所を避け、部屋の隅やケージの中など、落ち着ける場所で与えます。
- トイレから離す:きれい好きな犬にとって、排泄場所の近くでの食事は苦痛です。物理的に距離をとってください。
- 手から与えてみる:不安が強い場合は、飼い主さんの手から一粒ずつ与えることで安心感を与えることができます。
注意点として、過度にかまい過ぎると、それがかえってプレッシャーになることもあります。食事中はジロジロ見つめすぎず、少し離れて見守ってあげましょう。
4. 「フードへの飽き」が原因の場合
毎日同じ味、同じ匂いのフードが続くと、犬も飽きを感じることがあります。匂いを嗅いでプイッと横を向くものの、元気があり、他のおやつには興味を示す場合はこのパターンが考えられます。
この問題への解決策として、嗅覚を刺激する「トッピング」や「ローテーション」が有効です。
犬の食欲は、味覚よりも嗅覚(匂い)に大きく左右されます。いつものフードに少し変化を加えるだけで、劇的に食いつきが良くなることは珍しくありません。
前述した「ぬるま湯でふやかす」方法に加え、以下の工夫を取り入れてみてください。
- トッピングをする:アレルギーがなければ、茹でたササミのゆで汁や、無塩の野菜、犬用ふりかけを少量トッピングします。
- 電子レンジで温める:数秒間温めることで匂いが強くなり、食欲をそそります。(熱くなりすぎないよう注意してください)
- フードをローテーションする:数種類のフードを用意し、定期的に切り替えることで飽きを防ぎます。
ただし、トッピングには大きな注意点があります。トッピングの量が増えすぎると栄養バランスが崩れたり、「トッピングがないと食べない」という新たなわがままを生んだりする恐れがあります。あくまで「風味付け」程度に留めることが重要です。
小型犬の食欲不振に関するQ&A

最後に、飼い主さんからよくいただく質問にお答えします。
Q. どれくらい食べなかったら危険ですか?
A. 元気で水を飲んでいれば、健康な成犬は24時間程度食べなくても、すぐに大きな問題になることは少ないです。ただし、まだ体の小さい子犬や、持病のあるシニア犬の場合は、半日食べないだけでも動物病院に相談することをおすすめします。
Q. フードを切り替えるべき?
A. まずは今のフードで「ふやかす」「温める」といった工夫を試してみてください。それでも改善しない場合は、別のフードを試すのも一つの手です。切り替える際は、1週間ほどかけて、今までのフードに新しいフードを少しずつ混ぜながら慣らしていきましょう。
Q. 病気じゃないかと、どうしても不安です。
A. その不安な気持ち、とてもよくわかります。今回のフローチャートや対処法を試しても改善が見られない場合や、飼い主さんの不安が解消されない場合は、それが動物病院に行くべき一番のサインです。何も異常がなければ安心できますし、もし何か隠れていても早期発見に繋がります。
まとめ:あなたの観察が愛犬を守る一番の力です
愛犬がご飯を食べない時、大切なのは以下の2点です。
- 慌てず命のサイン(元気、嘔吐、下痢など)を確認する
- 病気のサインがなければ、原因に合った正しい対策を根気よく続ける
あなたの毎日の観察が、愛犬の健康を守る一番の力になります。この記事でご紹介したフローチャートや対処法が、その助けになれば幸いです。自信を持って、愛犬と向き合ってください。
それでも判断に迷ったり、少しでも不安が残る場合は、決して一人で抱え込まず、かかりつけの動物病院に相談してくださいね。



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