くらしラボPlus 運営者のまっしゃんです。
大型犬との散歩、憧れて迎えたはずなのに、いざ外に出ると「これじゃ散歩じゃなくて筋トレだよ…」なんて嘆きたくなること、ありませんか?
体重30kgを超える愛犬がグイグイ引っ張る力は想像以上ですし、何より転倒して怪我をする恐怖も頭をよぎりますよね。「いつか落ち着くはず」と信じて我慢している飼い主さんも多いですが、実は力の強い大型犬こそ、正しい道具とちょっとしたコツを知るだけで、劇的に歩き方が変わるんです。
この記事では、私が実際に試行錯誤して辿り着いた、大型犬の引っ張り癖を「力を使わずに」コントロールするための具体的なノウハウをシェアします。愛犬との散歩を「苦行」から「癒しの時間」に変えるためのヒントが詰まっていますよ。
👉記事のポイント
- 1 大型犬が散歩で引っ張る本当の理由と犬の心理
- 2 首輪とハーネスの違いによる体への負担と安全性
- 3 今日から実践できる具体的なトレーニング手順
- 4 散歩中の転倒事故を防ぐためのリスク管理術

大型犬の散歩で引っ張りの直し方を知る前に理解すべき原因とリスク
愛犬の引っ張り癖を直そうとするとき、いきなり厳しいしつけやコマンド練習を始める前に、まずは「なぜ引っ張るのか」を冷静に分析することが大切ですね。相手を知らずして対策は立てられません。ここでは、大型犬ならではのパワーとリスク、そして行動の裏にある心理について深掘りしていきましょう。
- •大型犬が散歩で強く引っ張る主な理由
- •引っ張り癖が招く転倒や骨折のリスク
- •首輪での制御が気管に及ぼす悪影響
- •引っ張り行動に関連する犬の心理
- •力任せの制御が逆効果になるメカニズム
大型犬が散歩で強く引っ張る主な理由とは
「うちの子は頑固だから」「私がナメられているのかな」と悩む飼い主さんは多いですが、実は犬がリードを引っ張るのには、もっと本能的でシンプルな理由が隠されていることが多いんです。
1. 狩猟本能と作業意欲の暴走
まず挙げられるのが、「狩猟本能(プレイ・ドライブ)」や「好奇心」の強さです。特にレトリバーやシェパードなどの使役犬種は、遺伝的に「動くものを追う」「匂いを探索する」というスイッチが入りやすい傾向にあります。視界の隅で猫が動いたり、風に乗って魅力的な匂いがしたりすると、思考するよりも先に体が反応してしまいます。「あそこに何かある!」と思った瞬間にアクセル全開になるので、人間が反応する前にリードがピンと張ってしまうんですね。
2. 学習による行動強化
次に多いのが、「学習された行動(オペラント条件付け)」というパターンです。犬は非常に学習能力が高い動物です。「リードをグイグイ引っ張ったら、行きたい電柱に早く着けた」「引っ張ることで、飼い主さんがついてきてくれた」という成功体験が一度でもあると、犬の中で「リードの張り=前に進むためのアクセル」という誤ったルールが出来上がってしまいます。悪気があるわけではなく、単純に「急げば着く」と信じているだけかもしれません。
まっしゃんのメモ大型犬の場合、悪気がなくても「単なるエネルギー余り」が原因のことも。散歩=運動不足解消の唯一の手段になっていると、外に出た瞬間の爆発力は凄まじいものになりますよ。まずは庭や室内で少し遊んでから出るだけでも、全然違います。
引っ張り癖が招く転倒や骨折などの深刻なリスク
小型犬なら笑い話で済む引っ張りも、大型犬となると話は別です。物理的な運動エネルギーが桁違いなので、飼い主さんの体には想像以上の負荷がかかっています。
特に怖いのが、突発的な転倒事故です。過去の事例でも、大型犬が急に走り出した拍子に飼い主さんが転倒し、手首(橈骨遠位端)や大腿骨を骨折するというケースは後を絶ちません。雨上がりのマンホールや砂利道など、足場が悪い場所ではそのリスクはさらに跳ね上がります。90ポンド(約40kg)の犬が全速力で走った時の衝撃は、成人男性を容易に転倒させる威力があります。
また、慢性的な「五十肩」や「腱鞘炎」、「腰椎椎間板ヘルニア」の原因が、毎日の愛犬の散歩だったという話もよく耳にします。片腕で常に30kg以上の負荷を支え続けるのは、スポーツジムで高負荷トレーニングをしているようなもの。無理を続けると、散歩そのものが苦痛になり、結果的に愛犬との時間が減ってしまうという悪循環にもなりかねません。
とくに大型犬を2頭以上で散歩している場合は、1頭あたりの力だけでなく合計の牽引力も無視できません。大型犬の多頭飼いは大変?費用や散歩の現実と覚悟すべきリスク!では、多頭引きリードやハンズフリーリードなど、転倒リスクを減らすための具体的な装備や現実的な負担についても詳しく解説していますので、該当する方はぜひ合わせてチェックしてみてください。
首輪での制御が気管に及ぼす悪影響と危険性

「しつけには首輪(カラー)が良い」という説を耳にすることがあるかもしれませんが、引っ張り癖のある大型犬に対して、首輪だけでコントロールしようとするのは医学的に見てかなりリスクが高い選択です。
犬が強く引っ張ったとき、首輪は喉の極めて狭い範囲に強烈な圧力をかけます。これが繰り返されると、気管軟骨の変形や気管虚脱、食道へのダメージだけでなく、眼圧の上昇による緑内障のリスクを高める可能性すらあります。
実際、英国のノッティンガム・トレント大学の研究チームによる実験でも、どのようなタイプの首輪であっても、リードを引っ張った際には犬の首に怪我のリスクとなるレベルの圧力がかかることが示唆されています(出典:PubMed『Canine collars: an investigation of collar type and the forces applied to a simulated neck model』)。特に大型犬の強い力で首を締め付けることは、「制御」ではなく「身体的ダメージ」を与えている可能性があることを認識する必要があります。
ここに注意!犬が「グェッ」「カッカッ」と咳き込んだり、ゼーゼーと苦しそうな息をしているのに、「苦しいから自分で止まるだろう」と放置するのは絶対にNGです。興奮状態の犬はアドレナリンが出て痛みを感じにくくなっているため、気づかないうちに喉や頸椎に深刻なダメージを負っていることがあります。
引っ張り行動に関連する犬の心理状態を解説
犬がリードをグイグイ引っ張るとき、その心の中は「わがまま」だけで満たされているわけではありません。実は、不安や恐怖が原因で引っ張っているケースも意外と多いんです。
例えば、社会化不足で外の世界が怖い犬の場合、工事現場の音、見知らぬ人、他の犬などの「脅威」から逃走するために、パニック状態でリードを引っ張ることがあります。「早くここから逃げたい!家に帰りたい!」という一心ですね。この状態で飼い主さんが厳しく叱ったりリードを強く引いたりすると、犬はさらに恐怖を感じてパニックが悪化してしまいます。
また、「飼い主さんを守らなきゃ」という過剰な防衛本能が働いていることもあります。常に前を歩いてパトロールし、前方から来る対象物を警戒しているような状態です。この場合も、力で抑えつけるよりは、「私がリーダーとして守るから、あなたは後ろで休んでいて大丈夫だよ」と安心させてあげることが解決への近道になります。
吠えや警戒行動など、引っ張り以外の問題も気になっている方は、【獣医師監修】大型犬の吠えは止められる?科学的しつけ3ステップ!も参考になります。罰に頼らず、犬の感情に寄り添いながら行動を変えていく具体的なステップを詳しく解説しています。
力任せの制御が逆効果になるメカニズム

散歩中に引っ張られたら、反射的にリードを引っ張り、犬を引き戻そうとしていませんか?実はこれ、犬の「対立反射(オポジション・リフレックス)」という本能を刺激してしまい、逆効果になることがほとんどなんです。
対立反射とは、「体に物理的な圧力がかかった際、無意識にその逆方向へ押し返そうとする生理的な反射機能」のこと。つまり、飼い主さんがリードを後ろに強く引けば引くほど、犬の体は反射的に「もっと前に進まなきゃ!」と反応し、重心を低くして前方に力を込めてしまいます。
| 飼い主のアクション | 犬の反応(対立反射) | 結果どうなるか |
|---|---|---|
| リードを後ろに強く引く | 前足に力を入れて踏ん張る | さらに強く前へ進もうとする |
| リードを短くピンと張る | 常に首や胸に圧力を感じる | 引っ張る状態が「デフォルト」になる |
| 大声で叱りながら引く | 興奮レベルが上昇する | 指示が耳に入らなくなる |
この「綱引き状態」は、結果として犬の引っ張り筋力をトレーニングしているようなもの。力比べで大型犬に勝てる人間はそうそういませんし、勝てたとしても犬の首を痛めるだけです。だからこそ、力に頼らない物理的なアプローチが必要になるんですね。
今日からできる大型犬の散歩で引っ張りの直し方【実践手順】
原因がわかったところで、ここからは具体的な解決策に入っていきましょう。精神論や根性論ではなく、道具の力と科学的な行動修正を組み合わせた、賢いトレーニング方法をご紹介します。
- •引っ張り防止に効果的なハーネスの選び方
- •散歩前に行うべきエネルギーの発散
- •引っ張ったら止まるトレーニングの手順
- •方向転換で意識を向けさせるテクニック
- •総括:大型犬の散歩の引っ張り直し方
引っ張り防止に効果的なハーネスの選び方とおすすめ

まず最初に見直すべきは「道具」です。私が大型犬の飼い主さんに心からおすすめしたいのが、「フロントクリップハーネス(前胸接続型ハーネス)」です。
通常のハーネス(バッククリップ)は背中にリードを付けますが、これは「そり犬」のハーネスと同じ構造で、犬が体重を乗せて一番力を入れやすい形になってしまいます。これでは引っ張りを助長しかねません。一方、フロントクリップタイプは、リードを胸の前(喉の下、胸骨あたり)に繋ぐ構造になっています。
フロントクリップハーネスの仕組み犬が前に向かってグイッと引っ張ると、リードの張力によって犬の体が自然と飼い主さんの方(横方向)へ回転させられてしまいます。これにより、犬は前進する力を物理的に削がれ、自然と飼い主さんと向き合う形になります。飼い主さんの腕力を使わずに、テコの原理で制御できる、まさに「魔法のアイテム」です。
有名どころでは「イージーウォークハーネス」などがドッグトレーナーの間でも定番ですが、最近はクッション性が高く、犬の脇が擦れにくい「Truelove」などの高機能ハーネスも人気です。首への負担も激減するので、愛犬の健康を守るためにも導入を検討してみてください。サイズ選びは慎重に、体にフィットするものを選びましょう。
散歩前に行うべきエネルギーの発散と準備
「散歩=運動」と思い込んでいると、エネルギー満タンの犬をいきなり外の世界(刺激の洪水)に連れ出すことになります。これでは、興奮して引っ張るのは当たり前ですよね。
トレーニングを成功させるコツは、散歩に出る前に少しガス抜きをしておくことです。庭でボール投げをしたり、室内で引っ張りっこ遊びをしたり、あるいは「ノーズワーク(おやつ探しゲーム)」で頭を使わせたりして、ある程度エネルギーを発散させてからリードを付けましょう。
とくに成長期の大型犬では、関節への負担を抑えつつ満足させる運動メニューの工夫も重要です。大型犬の成長はいつまで?体重推移と食事の切り替え時期を徹底解説では、月齢ごとの散歩時間の目安や、ノーズワーク・水遊びなど関節に優しい運動のアイデアも詳しく紹介していますので、成長期の子と暮らしている方は合わせてチェックしてみてください。
「少し疲れて、満足した状態」で作る成功体験が重要です。興奮レベル(アローザル)が下がっていれば、飼い主さんの声も届きやすくなり、落ち着いて歩く練習がスムーズに進みます。
リードを引っ張ったら止まるトレーニングの手順

散歩中の基本ルールは「赤信号・青信号(Red Light, Green Light)」です。これは非常にシンプルですが、徹底すれば絶大な効果があります。「引っ張っても無駄だ」と学習させるのです。
| STEP1: ストップ(赤信号) | 犬がリードを引っ張った(テンションがかかった)瞬間、無言で立ち止まり、「木」のように動かなくなります。絶対に引っ張り替えしてはいけません。 |
|---|---|
| STEP2: ウェイト(待機) | 犬が「あれ?進めないぞ」と気づくまで待ちます。ここは根比べです。数秒で気づく子もいれば、数分かかる子もいますが、絶対に折れないでください。 |
| STEP3: スタート(青信号) | 犬が立ち止まる、または振り返ってリードが「たるんだ」瞬間に「イエス!」「いいこ」と褒めて、歩行を再開します。 |
これを繰り返すことで、犬は「引っ張ると進めない」「リードが緩めば進める」というルールを学習します。最初は10メートル進むのに30分かかるかもしれません。近所の人に変な目で見られるかもしれませんが、そこは心を強く持ちましょう。この「一貫性」こそが最大の鍵です。
方向転換で飼い主に意識を向けさせるテクニック

犬が前方の匂いや他の犬に夢中で、完全に飼い主を無視してグイグイ先行しようとした時は、「方向転換(Uターン)」が有効です。
犬が飼い主を追い越そうとした瞬間、何も言わずにくるっと180度回って、逆方向にスタスタ歩き出します。リードを強く引くのではなく、体の向きを変えることで犬を誘導するのがポイントです。犬は「えっ!?」と慌てて追いかけてくる形になります。
これをランダムに行うと、犬は「いつ飼い主がいなくなるかわからない」「勝手に進むと置いていかれる」という適度な緊張感を持ち始め、チラチラと飼い主さんの様子を確認(アイコンタクト)するようになります。横についたら、すかさずおやつをあげて褒めちぎりましょう!「横にいると良いことがある」と教えるチャンスです。
ボディブロックを使った空間管理と興奮の抑制
犬が興奮しそうな対象(他の犬、猫、バイクなど)を見つけた時、リードで無理に引くのではなく、飼い主さんの体を使って視界を遮る「ボディブロック」という技も覚えておくと便利です。
犬と対象物の間にサッと割って入り、壁になります。物理的に視線を切る(カットする)ことで、犬の興奮がピークに達するのを防ぐことができます。「それは見なくていいよ」「その対象へのアクセスは許可しないよ」というメッセージを、言葉ではなく体で伝えるイメージです。
まっしゃんのメモこれは牧羊犬のハンドリングなどでも使われる「空間圧力(Spatial Pressure)」を応用した技術です。手で押すのではなく、自分の背中や足で空間を占領する感覚でやると上手くいきます。犬が落ち着くまでブロックし続け、落ち着いたら褒めてあげてください。
総括:大型犬の散歩の引っ張りの直し方
大型犬の引っ張り癖は、単なるしつけの問題だけでなく、飼い主さんと愛犬双方の安全に関わる重要な課題です。力でねじ伏せるのではなく、犬の心理を理解し、適切な道具(フロントクリップハーネスなど)を活用することで、散歩は劇的に快適になります。
一朝一夕には直らないかもしれませんが、「引っ張ったら止まる」「飼い主を意識させる」というルールを一貫して教え続ければ、賢い大型犬たちは必ず応えてくれるはずです。どうしても難しい場合や、危険を感じるほど力が強い場合は、無理せずプロのドッグトレーナーさんに相談するのも賢い選択肢の一つですよ。安全で楽しい散歩ライフを目指して、今日から少しずつ始めてみてくださいね!
監修
この記事の監修者
佐野 健人 (さの けんと)
獣医師 / 都内動物病院 院長
北里大学獣医学部卒業。都内の救急動物医療センターでの勤務を経て、現在は地域密着型の動物病院にて院長を務める。専門は循環器科と予防医療。「飼い主様の話をよく聞くこと」を診療方針とし、セカンドオピニオン対応も積極的に行っている。



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